緊急事態!

 …いや、別に俺がナニでアレというわけじゃないんですが。風邪は治ってないけど。
 交通事故が起きたんですよ、我が家の前で。MDを結構な音量で聞いてても聞こえるような音で「ドガーン」と。…そりゃもう、野次馬根性というわけじゃないですが、気になるわけです。見に行ったわけです。ちらっとだけ。
 …ちらっと見たら、確かにうちの塀にワゴンがぶつかってる。遠目にはさほど酷い事故にも見えなかったし、それで家に戻った。そしたら、寝てた親が今の事故で起きたらしく「塀が壊れてるか見てこい」だと。…そういや、確認してなかった。「ついでにナンバーも調べてこい」…ごもっとも。
 改めて現場を遠目に見る。たいしたことなさそう…だけど、事故から結構時間がたってるのに事故現場付近がしーんとしてるんだ。軽い事故だと、運転者同士でやいのやいの言ってるんだけど、それがない。…嫌な予感がしたわけです。つまり、運転者がやいのやいのやってるような余裕がない、…それほどの重傷を負っている…と。
 怖くなったので、家に戻ろうかと思った。最初はちらっと見るだけのつもりだったし。…けど、さっきの周りが静かだというのもそうだし、へたすりゃ死亡事故とか、そういうことになってるかもしれない。深夜だけに野次馬も全然いなくて通報だってまだかもしれない。ここで戻ったら猛烈に後悔すると思った。…何かきっと、俺にも出来ることがあるんだと。正直、この時点でちょっと動揺しはじめてて、もう救急措置なんて多分ろくにとれない状態だったろうけど。
 …意を決して近づいてみた。野次馬は俺1人。明らかに不審。塀にぶつかっていた乗用車は2台。さっき見たのはワゴン1台だったけど、実際にはもうひとつ軽自動車が塀に軽くつっこんでた。右折車(軽)をよけた直進車(ワゴン)がどっかんといったんだろうな、と。なんで軽もつっこんでるのかはよくわからなかったけど…。
 ワゴンのほうは近づいてみると、ひどい。結構なスピードでぶつかったんだろうというのがうかがえた。エンジンはまだうごいてた。うぉんうぉんというエンジン音が、この状況だと不気味というかなんというか。前は完全にひしゃげてたけど、運転席は無事のようだった。
 軽のほうは、接触したぐらいって感じ。ワゴンがひしゃげてるなら、軽はへこんでる。そんな印象。こちらは気にしなくても良いと思った。
 ぶつかった先の塀は…まぁ、当然だけどぼろぼろ。壊れてました。こうやって車のナンバー含めてあれこれ調べてると、そこに、運転者らしき人が!
 最初に思ったのは、頭にタオル巻いてて、工事現場のにーちゃんというイメージ。…でも、よく見ると違う。タオルは巻いてるというか、拭いてるかのように動かしてた。暗くて最初はわからなかったけど、顔中に血が。鼻先からポタポタ落ちてる。暗いし、どういう外傷があるのか全然わからない。でも、傷は決して浅くないと言うのだけは伺えた。あちらから話しかけてきた。「この家の方ですか?」
 ただの野次馬と違って(というか、そもそも他に野次馬はいなかった)、ナンバーとか調べてるので、そう思われたようです。ごまかして逃げちゃえば良かったのかも知れないけど、あちらの怪我を見て、もうそれどころじゃなくなってしまい、そうですと肯定してしまった。とりあえず警察は呼んだらしい。…意識はあるし、警察も自分で呼んでるし、普通に会話もできてるし、思ったよりは怪我は酷くはないようだけど…こうやって話してる間にも血はポタポタとたれてる。…応急措置でもとれるような人間なら良かったですが、動揺してるのも手伝って、何をすればいいのか解らずただうろたえてるだけ。目の前には怪我人。警察・救急には通報済み。…どうすればいいかわからない。
 とりあえず、部屋着のまんまで寒かったし、どうすればいいか親に相談しようと思って家に戻った。親は「面倒なことになるだけだから、ナンバーだけメモって家に居ろ」。…怪我人がいるんだぜ?血が出てるんだぜ?…それで面倒て、薄情もいいところだ。いや、事故なんだから怪我人がいるのも、血が出ているのも当たり前なんだけど…。ともかく、現場をあれだけしっかりと見てしまったら、ほっとくことなんかできない。具体的に何をすればいいのか全く解らないけど、なんとかしなきゃ、それだけは強く心の中で思った。
 …親と相談というか、「どうすればいい?」「家に居ろ」という問答を繰り返してる間に、救急が来たみたい。「救急車も来たし、いよいよ何もしなくて良い」だと。…まぁ、そうかもしれないけど…気になる。やっぱり、何かできることがある気がする。そう思って、家を飛び出した。
 救急車が来て、救急隊員の人がなんかいろいろやってた。俺はというと、そんな中話しかけることもできず、もう挙動不審な野次馬でしかなかった。おろおろと見守っているだけ。邪魔になってはいけないと思ったし…。おろおろしてる間に、救急に続いてパトカーが。警官の人が降りてきて、現場を見回す…と、当然不審な俺がいるわけです。さっきから書いてるように、野次馬は俺1人きりだったのもあるせいか、警官が寄ってきて「あんたは?」って聞かれました。事情聴取…ってほどじゃないけど、俺がぶつけられた家の人間であることと、世帯主の情報と連絡先、んで俺の情報を話しました。その人は、「とりあえず」で来たらしく、後でもっとちゃんとした人が来て現場を調べるのだそうで。もっといろいろ詳しく聞かれるのかと思ったけれど、時間も時間だということで、とりあえず家に戻って良いと。また後日、塀のことも含めて連絡があるそうだ。
 言われるがままに家に戻って、今に至る。


 …結局何もできなかった無力な俺に完敗(誤字にあらず)。情けないというかなんというか、役立たずだなぁと心底思ったよ。


 気になることとしては、俺は事故の当事者は1人しか見てないんだよね。車はさっきも書いたように、2台だった。となれば、最低でももう1人運転者が居るはず。おそらくさっきの怪我をしていた人はワゴンのほうの運転者だから、軽のほうの運転者がどこかにいたはず…。逃げた…にしては、車はおきっぱだったしなぁ…。車が仮に動かなかったにしても、おきっぱじゃナンバーからすぐに身元は割れるだろうし。…うーん、見落としただけか?それとも、怪我していた人のほうが軽の運転手で、実はワゴンのほうの運転手は、運転席で動けなかった…とかとか…。…わかんね。
 とりあえず、寝付ける気がしないけど、明日1限からなんだよな…orz もう寝ようか…。